医療費負担を軽減する制度

高額な医療費負担を軽減する制度に「高額療養費制度」があります。
当ページでは、わかりにくい「高額療養費」についてのポイントを説明いたします。
*ページの最後に、その他の医療費負担を軽減する制度についても簡単にまとめてあります。

近年、生物学的製剤(皮下注射や点滴の抗体製剤:症状の悪化に関わるタンパク質をピンポイントでブロックできるお薬)の高い有効性が証明され、毎年のように新しい薬剤が発売されています。
皮膚科領域においても、アトピー性皮膚炎治療薬であるデュピクセント®やミチーガ®、特発性慢性蕁麻疹に対するゾレア®、尋常性乾癬に対する多数の生物学的製剤などさまざまな生物学的製剤が登場し、これまで以上に皮膚状態を良好にコントロールできるようになりました。
しかしながら、これらの生物学的製剤は、少ない副作用で高い有効性を有する反面、高額な治療費がかかります。中等症から重症で、標準治療でのコントロールが難しく治療の副作用に悩まされているかたには生物学的製剤の使用が認められているにもかかわらず、治療費の負担が重く、治療を諦めてしまうかたもいらっしゃいます。
私はこれまで多くの方に生物学的製剤の治療を行ってきました。生物学的製剤を開始すると、皮膚症状が見違えるように改善することが多いですので、患者さまには大変喜ばれます。もちろん、かならずしも全員に効果があるというものではありませんが、生物学的製剤の登場により、これまで治療が難しかった皮膚疾患も良好にコントロールすることが可能となりました。
高額な医療費負担は生物学的製剤を選択する上で非常に大きな問題だと感じています。
医療費負担軽減の制度を少しでも知っていただき、ご理解いただくことが、治療費の負担のためにこれまで諦めていた生物学的製剤という新たな選択肢を検討していただくきっかけとなれば幸いです。

高額療養費制度とは

高額療養費制度とは、自己負担額が高額となった場合、一定の自己負担限度額を超えた部分が払い戻される制度です。
医療機関や薬局の窓口で支払った額が1カ月内で上限を超えた場合に、上限を超えた金額を支給することで自己負担を軽減します。要するに、自己負担額と上限金額の差額を、申請することで払い戻す仕組みです。
請求窓口は健康保険(国民健康保険、健康保険組合等)になります。


高額療養費制度を活用する際の注意点は以下になります。
・医療費自己負担額の月の上限は、年齢や所得によって異なります
・1か月内(1日~末日)の医療費が適用となります。
世帯合算(同じ世帯で、同じ医療保険に加入の家族の自己負担額を合算できる)という制度があります。
多数回該当過去12カ月以内に3回以上の頻度で上限額に達した場合、4回目から「多数回」該当となり、上限額が下がることで医療費負担が減る)という制度もあります。
・医療費の計算は、各医療機関ごとの計算になります。
(69歳以下の場合、異なる医療機関で負担した医療費は支払金額が2万1千円を超えた場合のみ合算できます。)
・申請してから払い戻しを受けるまでに最短でも3ヶ月程かかります。
市区町村窓口にて限度額認定証を取得すると、月上限までのお支払で済むようになります。
マイナ保険証をお持ちの方は、医療機関設置のカードリーダーにて限度額認定の情報提供を同意していただくことで、限度額認定証の申請なく上限金額のお支払いで済むようになります。

適用期間について

1か月内での医療費の支払いに限られます。
その月の1日から末日までの間に支払った医療費の合計負担額が適用となります。

対象となる医療費

保険診療のみが対象となります。
自費診療、入院時の差額ベッド代、食費などは対象外です。

医療費の合算について

原則として1医療機関ごとに計算をし、年齢によって合算できるかどうかの基準が異なります。
現状、70歳以上は医療機関が異なる場合でも医療費を合算できます。(合算できる金額の条件なし)
69歳以下は、それぞれの医療機関への医療費お支払金額が2万1千円以上の場合に限り合算できます。
合算した金額が月の上限を超えた場合に払い戻しを受ける事ができます。
入院と外来は別計算となります。

年齢と所得によって月の上限額が異なります

年齢が70歳以上かどうか、ならびに、年間の所得によって月の医療費の上限金額は変わります。


70歳以上の方

69歳以下の方


多数回該当について

数回該当とは、過去12カ月以内で3回以上の頻度で月の上限額に達した場合、4回目から「多数回」該当となり、上限金額が下がり医療費負担が軽減する制度です。

世帯合算について

世帯合算は、ひとりの医療費負担額では月の上限額を超えない場合でも、同じ世帯のご家族の医療費負担えを合算することで高額療養費制度をご利用いただける仕組みです。
同じ健康保険に加入している方に限りますが、それぞれ窓口で支払った自己負担額を1ヶ月単位で合算できます。

合算した額が一定額(前項の「年齢と所得の表」で計算した自己限度額)を超えた場合、お支払いの医療費と高額療養費上限の差額が払い戻されます。
但し、69歳以下の方は、月に21,000円以上の自己負担があった場合のみ合算できます。

詳しくは、厚生労働省保険局 ”高額療養費制度を利用される皆さまへ ” をご参照ください。

高額療養費についてのQ&A “協会けんぽ” サイト

限度額認定証について

高額療養費制度は申請後に払い戻される方式を採用しています。
高額の医療費を毎回支払い、払い戻しの申請を行うのは手間がかかりますし、払い戻されるまでに数ヶ月かかります。
こういった場合、「限度額適応認定証」があれば、窓口で提示すれば自己負担上限額までの支払いで済む大変助かる制度です。
大きな医療費がかかりそうな時(入院、高額な注射薬の利用がある場合)は、事前に申請して受け取っておくと大変便利です。
マイナ保険証をお持ちの方は、医療機関設置のカードリーダーにて限度額認定の情報提供を同意していただくことで、限度額認定証の申請なく上限金額のお支払いで済むようになります。

ただし、保険料の滞納がある場合は認定証を交付できないことがあります。
多数回該当・世帯合算については償還払いの扱いとなりますのでご注意ください。

「限度額適用認定証」の交付は市区町村窓口にて申請する必要があります。
申請に関する詳細は、市区町村の窓口にお問い合わせください。

その他の医療費を軽減する制度

【付加給付金制度】
〜健康保険組合等の独自制度〜
高額療養費制度は国が定める制度ですが、ご加入の医療保険(保険者)によっては、独自の「付加給付」として、国が定めるよりも手厚い医療費助成を行っており、自己負担上限額がさらに低く設定されている場合があります。
すべての保険者で実施されているわけではありませんので、詳しくはご加入の保険者(健康保険組合等)にご確認ください。

子どもへの医療費補助制度
各自治体で、子どもに対する医療費助成制度が設けられています。
対象年齢、助成内容、申請方法が自治体により異なりますので、詳しくはお住まいの市区町村にご確認ください。

ひとり親家庭への医療費補助制度
自治体によっては、ひとり親家庭(母子家庭・父子家庭)の方に医療費助成を行っている場合があります。助成内容や申請方法が自治体により異なりますので、詳しくはお住まいの市区町村にご確認ください。

医療費控除
生計を一にする家族が1年間で支払った医療費の総額が10万円(総所得金額が200万円未満の方は総所得金額の5%)を超えると、医療費控除を受けることによって、所得状況に応じた還付金を受け取ることができます。医療費控除を受けるためには、確定申告が必要です。
医療機関から発行された領収書は必ず保管しておきましょう。

最後に

医療費負担を軽減する制度は多数ありますが、それぞれ内容が分かりづらいものであったり、手続きがややこしいために制度を活用できていないことが多々あります。
このページですべて紹介できているわけではありませんが、主要な制度を知り理解することでみなさまの医療費負担が少しでも軽減できることを切に願っております。